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かいこばしでドボン

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海幸橋。
地元の人は「かいこばし」って呼んでるよ。
河岸と外界を結ぶところ。ここに立つと河岸にきたぜ、って実感する。
正門よりもこっちから入るのが好きだな。情緒があるってもんだ。
もっとも今じゃあ橋の形もなくなって、下を流れていた築地川も埋め立てられたけど、
どっかに風景の記憶、みたいなもんが残ってる気がするなあ。

橋も川もあった頃は、河岸の連中は今よりずっと気が荒くって、
酒が入るとこの橋の上で喧嘩をおっ始める、なんてのが日常茶飯事だったそうだよ。
夜更けになるとよく“ドボン!”なんて音が響くんだ。
でも誰も通報しないし、警察だって来やしない。
なぜかってえと昔は河岸がおっかないところだったからなんだ。
荒くれ者の住む別世界ってのが世間の通用で、堅気衆には恐くて近寄れない存在だった。


ある日のこと3、4人の全学連が機動隊に追っかけられて(ま、そーゆう時代さ)、
あろうことか河岸に逃げこんできちゃった。
機動隊は知ってるから「あ、ここはダメ。回れ右、退却」と、中へ入らないで帰っちゃう。
お、うまいこといったぞ。いいところへ逃げ込んだ、なんてホッとしたのもつかの間。


「おめえら、おまわりに追っかけられてきたな。てえことは悪いヤツにちげえねえ!
 おおい、こいつらドロボウだぞ! たたきのめして、す巻きにして川に放り込んじめえ!」


さあ大変だ! 機動隊なんかよりもずっとコワイ。
河岸引けに酒が入った連中だ。
手カギ、木刀、マグロ包丁と、手に手に得物を持って鬼の形相で迫ってくる。


「飛んで火に入る夏の虫だ、逃がしゃしねえぞ、ゴラァァァッ!!」


かわいそうな全学連、百人からの鬼どもにあっちこっちと追っかけ回されて、
ついに進退きわまってかいこばしから“ドボン!
「仕損じたかーッ!!」歯ぎしりする鬼たちは橋の欄干から身を乗り出しての大騒ぎ。
勢いあまって何人かが“ドボン!”、“ドボン!” タイガーズファンかってえの。

全学連は必死に泳いで海にのがれ、そのあと浜離宮で保護されたらしい。
もしも岸壁に上がってたら翌朝鬼どもにセリ落とされたろうから
不幸中の幸いだったね。


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