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赤い電車の日(後編)

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奇跡は、起きなかった。
 
 
8回ウラ、高田選手への7球目が微妙な判定でフォアボールとされると、
続く王選手への2球目。お得意のスローカーブはゆっくりと山をえがくように
ライトスタンドへほうりこまれていった。
それで糸が切れたのか、出てくるピッチャーが次々と打ちこまれ、
終わってみれば11-2。
11-2だよ! ノーヒットノーランの試合がさ。
現実ってのはツマラナイもんだよね。
 
 
 
「だからよしなさいって! 窓に顔をつけないでって言ってるでしょ!」
 
そりゃ、たびたび起こらないから奇跡っていうんだろうけどさ。
でも、ついさっきまで、一生に一度見られるかどうかって試合にいたんだ。
ほんとに、なんてあっけないんだろう・・・・・・あー、それにしても、また運転席に入りたいなあ。
さっきの時間にもどらないかなあ。
 
 ガンッ!!

「何で頭突きしてるのよ! いいかげんにしないともうアンタをつれて来ないからね!」
 
電車が急に速度をゆるめたもんだから、運転席の窓ガラスに顔をくっつけていたぼくは
イヤってほどオデコをぶっつけちまったんだ。
なんかチカチカするよ。目から星がでるってこういうことだな。
窓にキラキラ星がうつってる。で、その向こうでだれかわらってるよ・・・・・・
 
モリタさんだ!?
 
すごいよ、信じられない。また会えるなんて!
モリタさんは窓ごしに、指をクルリと回して、ホームに出てから運転席へくるように合図した。
やったーっ! 特等席だーっ!
 
 
つねづね、ぼくはマンガ家になるか電車の運転手になるかまよっていたんだが、
今日のこの出来事で、だんぜん運転手になることに気持ちがかたむいたね。
小さな計器がグルグル回ってる。これ何ですか、ってほんとは聞きたいんだけど、
運転中のモリタさんに話しかけるわけにはいかない。
でも、電車がとまるたびに、モリタさんはぼくと話をしてくれた。
 
 
「すごいじゃない。そりゃイイ試合だったね」
でも、最後はメチャクチャですよ。ほんとに力がぬけちゃった。
「まあ、野球だからね・・・・・・でもいいんじゃないかなあ。
7回までのノーヒットノーラン。それだって、きっと良い思い出になるにちがいないよ」
 
そうかもしれない・・・・・・
 
 
忘れられない一日。
7回裏の試合、いつまでも終点につかない電車。
自分で勝手に止めた時間は、30年たっても、いつも待っていてくれる気がする。