今川焼の恐怖
カマボコ屋のケンジは甘いものに目がない。今日も河岸の屋台店で今川焼を5つ買うと、
「おっ! ひとつ多く入ってるぞ。6つもある」
今川焼屋のオヤジが数えまちがえたのだろうか、これはもうけだ。
ケンジは至高の喜びに包まれながら片っ端からほおばった。
4つ、5つと食べ、最後のひとつを口に入れようとした時である。
「その今川焼を食べることはまかりならん!」
突然、けたたましい声を上げて目の前に現れたのは、一人の山伏である。

「ふははははは、わしは五雷天心今川道士じゃ。
お前の手にしておる今川焼からは、ただならぬ妖気がただよっておる。
それを口にしたらお前、命を落とすぞ!」
「何だって、妖気だあ? ふーん、じゃあ食うのやめとくか」
「いいか、食ったらホント大変だぞ。絶対悪いことがあるぞ。
食えばうまいがな。だが食うと何かあるぞ。嘘じゃないぞ。食うなよ。
それでも食うというのか」
「だから、食わないって言ってるじゃねえか」
「だが、お前は食うのだ。餡の甘さにほだされて。ああ、愚かな……。
甘さにたぶらかされた愚かな男。ほうら、甘いよ。餡は甘いよ。
甘いものには毒があるよ。お前の喉に毒が入ってくよ……」
山伏はケンジをつかまえて、無理矢理に今川焼を口に押し込んだ。
「ぶあっ! ごほっ、ごほっ! 何すんだ、このやろう!」
「あーっ。食っちゃったな。あれほどよせと言ったのに。大変だぞお~」
山伏はそう言うと韋駄天のようにどこかへ走り去っていった。
「何だ、あの野郎は?」
ケンジはキツネにつままれたようにつぶやいた。
その帰り道である。
「うー、いつのまにかあたりは真っ暗だぞ……うわっ!!」
ドスンッ! 突然ケンジは高い所から落ちて尻餅をついてしまった。
見回すと彼は巨大な円形の中にいた。
「誰だ、こんなところに穴を掘ったのは!」
何とかそこから這い出そうとするが、足元に油がしかれているため、ツルツルすべって上がれない。そうこうするうちに地面が焼けるように熱くなった。
「アチチチチ!」
あまりの熱さに飛び跳ねていると、
ザザザザー
頭上から水で溶いた小麦粉が大量に降ってきて、危なく溺れかけた。
すると今度は
「うわあ、アンコだあ!」
巨大な餡が彼をモッテリと押しつぶすのであった。
「このように、世の中には様々な危険があるのです」
山伏はそう言い、焼きあがったばかりの今川焼をほうばると、
天から降りてきたロープにつかまりスーッと、どこまでも昇っていくのだった。