築地魚河岸昔がたり(26)建継事件顛末

大変なことになった魚河岸
このままでは魚河岸に安泰の日は来ない。
西宮利八を先頭とする男気を絵にかいたような五人の若者は、
それぞれ大包丁を手に建継所に殴り込みました。
かれらの決死の突撃に 色めき立ちます魚河岸の
喧嘩のことなら飯よりも好き
よその喧嘩も買って出る 血の気の多い連中だ
常々憎きは 建継所(たてつぎじょ) その不満は爆発し
手かぎ、包丁、得物を持って 五人衆の後を追う
「かれらに怪我をさせるな!」
「役人に化けた泥棒を打ち殺せ!」
皆 口々に 叫んでは 上げた拳を下ろさない
いつのまにやら橋詰めは 百人を越す大群衆
鼻息荒き連中がぞろりと囲んだ 建継所
心強き助っ人の 熱狂 声援 背に受けて
思わず知らずに 熱くなる はやる心の五人衆
頭にカーッと血が上り 身体も動(いご)いてまいります
はじめは脅しのつもりでいたが ついには包丁振り回し
相手に怪我を 負わせてしまった!
さあこうなると大事件 ただでは済まぬ お定めだ
罪人 下手人 縛り首 下手すりゃ魚河岸取り潰し
問屋・組合・お偉方 血相変えて駆けつけて
何とか事を治めたい 割って入ってみましたが 頑と動かぬ五人衆
ここでこの手を引いたなら 我らの行動 無駄になる
いざとなればこいつらと 刺し違えて死ぬ覚悟
役人たちの咽喉仏 二尺五寸を突きつけて
一歩も引かぬ心意気!
これでは生きた 心地もせぬと 音を上げたのは役人だ
命ばかりはお助けを
河岸の群集証人に この建継所をば取り潰す
約束交わす起請文(きしょうもん) 泣きの涙で書きまする
公儀の役人向こうに回し 大立ち回りの魚屋風情
まこと天晴れ 魚河岸の 勇み肌なら天下一
その男気を知らしめた
五人は江戸中の評判になりました
こうして魚河岸を苦しめていた癌は一掃され、
ふたたび平安が戻ってまいりました。
しかし、さすがにこれだけの騒動を起こしては何のお咎めなしとはまいりません。
即刻五人は召捕られ、残念なことに吟味が済む前に五人とも牢死してしまいました。
魚河岸の人々は彼らの冥福を祈り、
回向院境内に石造の五輪塔を建てて手厚く供養をいたしました。
これが歴史に残る魚河岸の「建継事件」の一幕にございます。