J.B.ヘイウッド著『Tsukiji Fish Market』のこと(1)

Tsukiji Fish Market J.B.Haywood著
俺がJ.B.ヘイウッドの名を知ったのは、今から5年前、
築地市場のなかにある図書館『銀鱗会』で蔵書の整理を手伝っていたときのことだ。
古びたゾッキ本の詰まったダンボールの底からそれは出てきた。
“Tsukiji Fish Market –J.B.Haywood”
クロス製の表紙にシンプルなタイトルが打たれた洋書。
英文をざっとひろい読みすると、どうやら築地市場のガイドブックのようだ。
外国人によって書かれた築地で、しかも1976年刊とあるから、
もう30年も前に出されたものだ。
俺はちょっとめずらしさに興味をそそられたんで、そいつを借りていった。
さて、家に帰って辞書を片手に読んでみると、これがとんでもない内容だった。
その一部を以前にコラムでネタにしたので、 こいつ を読んでもらえれば分かると思う。
要するに西洋人のイメージする、ありがちな東洋的エキゾチズムにあふれた、
誤解された日本の姿がそこに描かれていたのである。
サムライ、ゲイシャ、ニンジャが闊歩する
アナザーワールド築地の描写は、まあ面白いといえば面白いのだが、
しかし、こんなものがガイドブックとして出回っていたなんて……。
earnest-goldwin社という出版社から出されているが、
果たしてどれほど売れたもんだか。

J.B.ヘイウッド(J.B. Haywood)
1921年イリノイ州生まれ。冶金技師、コラムニスト。
コンラッド大学卒業後、ドラゴニア社の顧問技師として高山採鉱に携わるかたわら、
コネティカット・トリビューン紙に風刺コラムを連載。地元で評判になる。
現在、日本の築地に帰化し、早朝から魚を食する生活をしている。
これが本に記された著者の略歴だ。
帰化というのが、どういういきさつかは知らないが、とにかく日本にいるのだろう。
俺はこのおかしな本の著者にコンタクトをとってみたいと思った。
それで何人かの知人を通じて調べてもらったが、
みな口をそろえて、そんな外国人はきいたことないという。
もしかしたら経歴もでっち上げで、本当はJ.B.ヘイウッドなんて人物は存在しない、
などは、まあ、よくある話だ。
その後、俺は日々の多忙にまぎれて、奇妙な本も著者のことも頭のすみに追いやってしまった。
それが先週のことだ。
図書館で発行している機関紙「銀鱗」のバックナンバーをめくっていると、
昭和59年第2号の通信欄に次のような見出しを見つけた。
“ゼイムス平森氏死去。築地を愛した青い目の帰化人”