(復刻版『築地市場ガイド』第4回)

『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
ツキジを訪れる観光客がまず面食らうことは、
この場所がやたら忙しく動いていることだろう。
まっすぐ歩いていても自分のすぐ横を
4tトラックがすごいスピードでかすめる。
その風圧でカツラが飛ぶぜ。
車だけではない。
荷台に魚を満載させた自転車が、
肩から網カゴを提げた買出人が、
獲物を求めてうろつきまわるドラ猫までが、
忙しそうに目の前を過ぎていく。
どうやらこのツキジの中では時計の針すらも動きを早めるらしい。
時間を超越した世界、そこはトワイライト・ゾーン。
その辺でロッド・サーリングを見なかったか?
何よりも問題なのは通称ターレットと呼ばれる市場の運搬車だ。
こいつを見たなら、まず避けた方がいい。
モタモタしてると危険だ。
何だあれは? 向こうからおかしなもんが走ってくるぞ。
写真でも撮るかな。おや、こっちにくるぞ。おいおいおいおい。
何でオレに向かってくるんだ。危ねえよ危ねえっての!
何か殺気を感じるぞ、オーマイガー!
ターレットは絶対にブレーキをかけないし、自分の進路を変えない。
しかもこいつはどんなところにも入り込んでくるゴキブリなみの機動力ときている。
もしも目の前に現れたときは、もう最期だからお祈りでもした方がいい。
そして命を落としたくなければ、この殺人マシーンにはゼッタイに近づかないこと。
ちなみに市場の中で轢かれたらどうなるか。
轢かれた方が悪い、ということになっている。
ツキジはニッポンの中にあって治外法権なのだ。
だから領事館に助けを求めてもムダである。
築地は法律からも時代からも取り残されたロスト・ワールド。
そして前世紀の遺物らの存在するジュラシック・パークだ。
このことは以前スピルバーグにも伝えておいた。
ツキジでは動いているものすべてに警戒を怠らないこと。
どれもこれも自分の命を狙っているくらいに考えておいてちょうど良いだろう。