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築地魚河岸昔がたり(30) 風雲急を告げる

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時は幕末 動乱の 風雲急を告げまする
慶応四年正月に 火ぶたを切ります号砲は
会津・桑名を主力とたのむ 一万五千の幕府軍
鳥羽の伏見で敗れ去り 時代の転換余儀なくされた
その鉄槌ともなりました

勝てば官軍 負ければ賊軍 薩長掲げる 錦の御旗
抗うことの 出来ぬ恐怖が 
幕軍をして敗走を させたものでございます

それでも江戸には徳川の 望みをつなぐ八万旗 
温存されておりまする
これが動けば起死回生の 戦(いくさ)ができると思いきや
三百年もの太平に 慣れてしまった武士たちに
戦意乏しく 団結力も 持ち合わせない体たらく

なかには江戸を後にして 逐電するは卑怯者
尻をまくってハイ左様なら
ここに幕府は存亡の 危急の事態を露呈して
上を下への大騒ぎ……
 

 
そんな折、町奉行所より相模屋武兵衛(さがみや たけべえ)をはじめとする
魚河岸総代らに異例の呼び出しがございまして、

「容易ならざる時節柄、この上、薩長軍が攻めて来た時の
江戸防戦にあたり、その方らは日頃より勇ましい気性ゆえ、
万一の場合は心を合わせ、尽忠いたすべし……」

という命令が書面で下されたのでございます。


尽忠といえば軍役を意味する言葉。
つまり魚河岸の人々に「江戸防衛のために戦うべし」
というお達しが下ったわけですな。
いかに幕府が危機にあるとはいえ、
町人に対してこのような命令が下されるのはかつてないこと。
豪気でなった武兵衛もさすがに即答を控え、
魚河岸に戻って一同の意見をきいた上でご返事いたしますと、
ひとまずは引き下がりました。
 
 
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