築地魚河岸昔がたり(31)河岸の気風をみせようじゃねえか!

突然のお達しにとまどう魚河岸衆
魚河岸 問屋・仲買の すべての顔が集って
評議をはじめてみたものの
武兵衛(たけべえ)からの報告を きいたとたんに一同は
水を打った静けさに 黙りこくるは思案顔
さしもの威勢の 良い連中も
今度ばかりは 荷が勝ちすぎる
互いに顔を見合わせて ただただおろおろするばかり
この状況に武兵衛は 「吃っ(きっ)」とかたちをあらためて
すべての顔を見回すと
「皆の者、心してきいてほしい」
と口火を切りました
我らは元和(げんな)慶長(けいちょう)の
古き御世(みよ)より将軍様の
お魚御用をつとめてまいった
その間に 紆余曲折はあらばこそ
なお商いを 続けらるるは お上のおかげ
今こうして我々に 援助の力を請うてきた
町奉行より直々に 助力を請うてきたものだ
今こそ我らが恩返し お江戸直参魚屋の 心意気をば見せようぞ
だいいちだよ、薩摩だ、長州だのと、
とんだイモや三ピンの 官軍の名を借りた紙屑拾いに、
この日本橋を渡らしたら、それこそ江戸っ子の名折れじゃねえか。
こいつぁな、沽券にかかわることなんだぜ!
武兵衛の 熱のこもった弁舌に 訳もないまま感激し
「そうだ、その通りだ」「やろうじゃねえか!」
皆 口々に叫んでは 立ち上がり 腕を振るのでありました
無謀といえば あまりに無謀
引くに引けない河岸の気風(きっぷ)が
ただいたずらに駆り立てられて
時代の波の真っ只中に 突き進んでまいりますぅ