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復刻版『築地市場ガイド』(3)ツキジという別世界

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『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
外国人がツキジを訪れる場合、
それはニッポンの中のツキジという別の国に出かける、
と考えた方が的を射ているだろう。
それはツキジがニッポンにあって、まったくの別世界であり、
地続きながら“シマ”と呼ばれ、外界とは隔絶されていることによる。
その構造はちょうどローマ市内にあるバチカン市国と似ているが、
宮殿がキリスト教の聖地で神々しいのに対し、
カシは魚の聖地であって、たいそう生臭い。
 

 
一歩ツキジに足を踏み入れたなら、そこはニッポンの治外法権であり、
ツキジ独自の法がすべてを支配する。
この国においては魚が一番偉い、ということになっている。
時おり、ダイミョウギョウレツに出くわすこともあるが、
威光に打たれ平伏する人びとの頭の上を行くのは、
最高級クロマグロを乗せた戸板などであったりする。
この世界は魚を中心に動いているのだ。
 
 
魚中心社会では、時間さえもが著しくねじ曲げられる。
ツキジにおける朝は、午前0時をもってはじまり、
午前4時のかきいれ時の後、正午に店じまい、夕方5時頃はすでに真夜中をむかえ、
すべてのツキジ原住民は植木に水をやり眠りにつく。
世の中には世界時(GMT)とニッポン標準時(JST)とともに
ツキジ標準時(TST)があり、ニッポン本土の時間とおよそ7時間の差があるのだ。
ツキジの買出人たちは、日付変更線のあるカイコ橋のところで、
腕時計を調整しなければばならない。
 
 
また、世界中の魚が一堂に会するツキジは、魚の生息環境のちがいに応じて、
さまざまな気候帯が複雑に分布しているのが特徴だ。
冷凍マグロの好むマイナス40度の極地気候から
バナナフィッシュが踊る35度の熱帯気候まで。
それに合わせて真冬に裸で歩く南方系ツキジ原住民や、
真夏に防寒服に身を包んでふるえるイヌイット系ツキジ原住民などが見受けられる。
多様な民族の混在は取り扱い魚種の豊富さに比例しているのだろう。
 
 
このような世界を見聞することは大変に興味深い、
と同時に、ややもすると常軌を逸したかれらの行動に
驚き、とまどい、時には恐怖さえ感じることも珍しくないだろう。
 
 
ツキジを訪れる観光客を襲うさまざまの危険。
次回より、それらについて考察してみたい。