関東大震災の話
子どもの時分、毎年9月1日になると、
祖母から震災の話を聞いた。
明治36年生まれの祖母は19の歳に地震に遭った。
生々しい体験談を何度も聞かされたので、
見たはずもないのに、僕はその光景が脳裏に焼きついている。

「こち亀」で有名な亀有は、今では下町情緒の残る町として親しまれているが、
大正時代にはまだ畠のなかに停車場がひっそりと建つような辺鄙な土地だった。
そこの大きな農家に嫁入りした祖母は毎日家事と野良仕事に追われる。
その日も朝から畠に出てもくもくと草取りをしていたが、
祖母は異様な蒸し暑さに空を見上げた。
おかしな天候だった。
朝方からバケツをひっくり返したような雨が降ったかと思うと
カーッとお日様が照りつけてくる。
灼けるような日射しと叩きつける雨がいっしょにやってくるのははじめてだ。
それが収まると、今度は地面から湿気に蒸された熱い空気が立ち昇ってきた。
そろそろお昼の仕度にかからないと――
四ヶ月の子どもを宿した重い身体をゆっくりと持ち上げようとしたとき、
彼女はぞっとするものが近づいてくるのを感じた。
あれはなんだろう――
遠くの方で景色がゆがんで、
地面が波打ちながら津波のようにこちらに向かってくる。
頭のうしろでゴォーッという鈍い音が、
徐々に大きく、やがて耳をつんざくように響いた。
向かいの家の障子が、バタバタとけたたましい音を立てて庭先にころがった
次の瞬間、巨人の手で揺すぶられるように地面が無茶苦茶に回転しだした。
跳ね上げられ、突き飛ばされ、心もとない身体は何度も転がされた。
天と地が逆さになったと思った。
それが地震だと気づくまでに何秒かかっただろう。
畠の真ん中で四つん這いになったまま動けない。
自分を取り囲むように、いくつもの地割れが走っていくのが見えた。










