セリバを見て回る
(復刻版『築地市場ガイド』第10回)

『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
ツキジのセリを見られるのか? ということをきかれる。
セリはツキジの会社と仲買との商行為の場だ。
だから、一般客は立ち入り禁止ということに建前上はなっている。
入口にもそのようにデッカク書いてあるし、
見物客などほとんど見受けられない。
だが、どういうわけだか外国人は容易に見れるようだ。
市場の事務所に事前に声をかければ、
「ア、ソー。いいですドーゾドーゾ、コンニチハ!!」
と気さくに通してくれる。
なぜか知らないが、どうも日本人は半世紀前の戦争で負けてから、
外国人には頭が上がらないようである。
連中の弱みにつけこんで、大いばりで見学するも一興であろう。
ただし、先に言ったように、セリバはかれらの商行為の現場だ。
本当なら一般人お断りの場所だということをよくわきまえる必要がある。
必ず守らなければならない3か条というのがあって、
これを破った者は、“死”をもって贖われるという恐ろしい掟が存在しているのだ。
①セリバでの不穏な行動は“死”
セリバでは業者が忙しく動き回っている。
真剣に品定めしているかれらは精神的にもピリピリしており、
セリバをウロチョロしたり、かれらに話しかけたり、
ポケットに手を突っ込んでマグロを引っ張るセリ人など
かれらを無闇に刺激する行為はご法度とされる。
その際、腰にさした2尺5寸のツナソードで斬られても文句はいえない。
これを無礼打ちと呼び、遺骸は菰をかぶせられマグロと共に並べられる。
ニッポンに今も残るサムライの風習である。
②マグロに不用意にさわれば“死”
巨大なマグロが目の前にゴロリと転がっていると、ついさわってみたくなる。
しかし、ここに並べられたマグロは新鮮であり、
あまりの新鮮さに生きているようであり、時に生きている。
そいつにふれたとたん、覚醒したマグロは時速300キロでセリバを泳ぎ出すであろう。
1本の覚醒は直ちに他のマグロへと伝わり、回遊魚の集団行動によって、
セリバはさながらマグロのサーキット場と化す。
新幹線と同じ速度のかれらに轢かれれば、五体バラバラで人間がマグロだ。
このような行為はマグロ騒乱罪に問われ、詰め腹を切らされるは必定。
つまりセップクであり、武士道であり、名誉の死は魚のハラワタと共に、
午後になると集荷業者によって回収されて石鹸の原料となる。
③セリ中のフラッシュは“死”を招く
セリは仲買業者が“テヤリ”という武器によりセリ人を刺し殺すことで成立する。
いわば命がけの行為であり、正確な“ヤリ”を入れるために
業者はセリ中には五感をとぎすましている。
そんなときにカメラのフラッシュなどによる幻惑は
ただちにスパイ行為とみなされ、尾行ののち、しかるべき時期に
尻より放射性物質を注入し暗殺される。
屍骸はただちに原爆マグロとともに正門脇に埋められ、
すべての真相は闇へ葬られるであろう。








