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酒ブタをめぐる冒険(その1)

“酒ブタ”が懐かしい、とかいうと相当なオヤジだね。
 
 
あれは大阪万博の頃だったと思うけど、子どもたちの間で熱病のように流行ったもんだ。
たかが一升瓶のフタでね、まだブリキ製のキャップにコルクがついていた時代のヤツ。
そんなツマラナイものが当時、何よりの宝物だったんだからな。
 
 
遊び方はいたってカンタンで、お互いペチンッとはじき合って、
ひっくり返したら勝ち、みたいな感じだった。
一般的には「剣菱」(とくに黒)が一等強くて、「月桂冠」が弱いとかいわれてた。
オレは内心「(ギザつき)忠勇」のが強いんじゃないかと思ってたがね。
 
 
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  “剣菱”がいちばん強い
 
 
もっとも、そんな遊びなんかどうでも良くってさ、
要はどれだけ珍しい“ブツ”を持っているか、ということだった。
何しろ酒の種類ってものすごくあるから、
聞いたこともない銘柄、見たことないデザインにトキメクわけ。
つまりコレクターズアイテムだよね。
ただ、そいつが今のムシキングなんかと決定的にちがうのは
そこいらの酒屋にいくらでも落ちてて、なんたってタダだから、
貧乏な昭和時代の子どもたちにはうってつけのアイテムだったってことさ。
でも売ってないからこそ、誰も持っていないヤツを見つけるのは至難だったし、
時にその収集にはちょっとした“危険”がともなうこともあったんだ。
 
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「南団地へ行こうぜ!」
  
その日は学校が午前中で終わったので、ツヨシとヤマピーとオレは
いっちょう「酒ブタ遠征」に出かけようかって相談をしてた。
あちこち酒屋を回って、めずらしい酒ブタ集めようってわけなんだけど、
それにしても「南団地」は相当ヤバイよ。
 
 
そこはオレらの通学路から1キロも離れた、いわばテリトリー外の場所なんだが、
団地に隣り合って巨大な酒ビン置き場があったんだ。
うず高く積まれた酒ビンの山。
そこに酒ブタの珍種がどれほど眠っているのだろう。
まさに宝庫であることは誰にだって想像できた。
でも、誰もそこに足を踏み入れようとはしなかったんだ。
 
 
それというのも、そこは犬屋敷といわれていて凶暴な犬がいたからだ。
近づいただけでかみつかれるんだからたまらない。
 
 
それよっか、おっかねえのは、そこに犬男爵というのが住んでるんだよお。
そいつは犬の頭を持っていて、そいつにつかまると犬にされちゃうんだ。
犬の頭をした犬男爵が人間の顔をした犬をつれてるんだよお……、
 
 
情報通のヤマピーがしたり顔で話すのを「んなこたネェだろ」ときいてたけど、
何しろ犬は苦手だし、どっちみち、おっかない場所にはちがいない。
オレは正直、ちょっとビビッていた。
(つづく)