築地魚河岸昔がたり(57) 不買争議(その一)

嵐が近づく魚河岸
要求一 通路の整備
二 販売量目の正確化
三 魚の着色の取締まり
四 卸売業者の小売行為の禁止
五 買出人団体員のみに販売すること
六 買出人団体員に限り奨励金を交付せよ
“……今さら申し上げるまでもございませんが、
魚河岸の人たちが私どもとの取引に対してどういう態度を取っているか。
バカヤロウ、シミッタレ等はまだいいとしても
呉れてやるから持っていきぁがれ、とか甚だしいのは乞食野郎等々の罵声を浴びせ、
しかも平然とそれを繰りかえすのだから、問題にも何にもなったものではありません。
果たしてそれでいいものでしょうか?
とりあえず六つの希望要件を表面化して要求しましたが、むしろ私どもの真意は
魚市場の人たちがもう少し時代というものに目覚め、
私たちをせめて人間並みに取扱ってもらいたいということです……
私どもは決して魚市場の人々を無能だとは申しません。
しかし、私たちが遠慮してあからさまに言わないからといって
私たちの真意を汲み取って下さることの出来ないのは、甚だ心外に堪えません”
時代は変わったのだから、これまでの魚河岸の不遜な態度はもはや看過できなくなった、
買出人の声はまったくもって正当なものでした。
六項目からなる要求は魚河岸の客である買出人として当然の権利と主張しました。
ところが、このうち五と六は買出人団体の者だけに適用せよ、というもので、
裏を返せば商売がしたければ、また、奨励金が欲しければ、団体に加入しなければいかん、
それを市場側は認めろ、というのは無理な理屈があります。
ことに六の奨励金というのは、当時青果の方で千分の五の歩戻しを行なっていて、
それを鮮魚にも適用しろ、というものでした。
買出人側の数々の要求はひとえにこの歩戻し、つまり「金を出せ」ということにある、
そう見てとった魚市場組合の田口達三は「一厘も出せない」と思いました。
期限ギリギリの八月五日午前十一時に魚市場組合より買出人団体に提出された回答書には
第一から第四までの要望には従前の努力を続けるが、五項、六項は絶対拒否というもので、
両者の姿勢は完全に平行線をたどります。
この回答を受けて翌々日の七日、塩沢達三ら買出人団体の代表が
魚市場組合を訪れまして、再度要求を持ち出して十日までに再考をうながします。
このとき塩沢と田口は二十分ほど実におだやかな雰囲気で会見したといわれますが、
「いちおう組合の儀に諮って……」と言う田口の胸の内は「絶対に呑まんぞ」でしたし、
それを微笑で受ける塩沢の表情にも「呑まなければ不買動議をやるぞ」という意志が
ありありと表れていました。
双方の対立はまさに一触即発の状態だったのでございます。
コメント
まさに、嵐の前の静けさなのでしょう。嵐雲立ちこめる市場の写真が象徴的ですな。次が、またまた楽しみでございます。
投稿者: 築地屋魚丸 | 2007年03月05日 17:11