築地魚河岸昔がたり(58) 不買争議(その二)

業者は争う 行政は市場をつくる(昭和7年)
買出人団体と魚市場組合との戦いは、
そもそも小売商が魚河岸で不当な扱いを受けていたことに端を発していますが、
買出人団体が六項目の要求を突きつけたときから様相が少しばかり変わってまいります。
とくに第六の要求である奨励金の交付に真の狙いがあることは、はた目にも明らかで、
魚市場組合側としてはこれを飲むわけにはいきません。
なぜなら、買出人の要求通りに歩戻しを行なえば、魚問屋の利益を補うために、
その不足分を生産者である浜方に求めることになってしまうので具合が悪いわけです。
どうして具合が悪いのかというと、これが説明すれば長くなるので何でございますが、
どっちみち、このシリーズはすでに長くなっているので、以下にご説明いたしましょう。
それはいつ頃生まれたのか分かりませんが、
魚河岸では「書きこぼし」という旧慣が古くよりございました。
この奇妙な言葉の意味をご説明するに、端的に申せば「略奪」ということでございます。
魚河岸が浜方から利益をバンバカ搾取していたわけですな。
各浜の荷主から魚河岸の問屋へ魚荷が託送されてまいりますと、
そいつを少しでも高く売ろうと魚問屋は努力いたします。
そしてその売上高の百分の七を規定の口銭として差し引いて、残りを荷主に送金します。
口銭というのは手数料と思っていただければよろしいです。
この「七分口銭」というのが原則的に認められた魚問屋の利益でございました。
さて、魚というのは自然の産物でございますから、相場の不安定はつきものです。
一体そいつが幾らで売れたのか、魚の値段って幾らなのよ、ということは
旧来の魚河岸方式では、まったくのブラックボックス状態で誰にも分かりません。
といいますのも何でも魚問屋の自己申告制でしたから、
問屋が幾らで売れたといえば誰も文句をつけられなかったのでございます。
だから、五十円で売れたものを四十五円、あるいは四十円なんてことにしてしまう。
そこはまあ、やり過ぎないように注意を払ったでしょうが、
正当な金額を計上する魚問屋は、ほぼ皆無に等しかったのですな。
このような不正を「書きこぼし」と称して暗黙のうちに搾取するというのが慣わしで、
「七分口銭」は表向き、実際は略奪に等しい行為が横行していたのが当時の魚河岸でした。
そこへ持ってきて買出人風情が歩戻しをよこせと言っている。
連中に二、三分の口銭を呉れてやったなら、
必然的に浜方からの口銭を一割程度に引き上げなければならなくなる。
売価で不正しているんだから、何も口銭ぐらいと思いますが、
それはそれ、これはこれ。せちがらいのが水産業界でございます。
ちなみに一割のバックマージンはR10%(アールテンパ)と申しまして、
局地的業界用語で「たいへんにオ・イ・シ・イ」とされております。
荷主連中も人の良いばかりではありません。
もしも問屋が買出人の要求を呑むということであれば、
口銭引上げならば、その代わりに「書きこぼし」絶対廃止すべしとの、
強硬な態度に出るぞ、という空気をありありと感じさせつつ、
事の行方をじっと睨んでいました……
そういうことで、魚市場組合側は買出人団体の要求を容れることは
絶対に、絶対に出来なかったのでございます。
実は買出人側はこのような事情を十分に知りつくしておりまして、
要求拒絶はすでに織り込み済の上で、最初から喧嘩腰で交渉に立ったのです。
そこに稀代の戦略家、塩澤達三の深い戦略がございました。
本当のところ、かれとて奨励金を取れるとは思っていませんでした。
いかにも奨励金欲しさと見せかけておき、それだけは実行不可能という結果を引き起こす。
それならば、とそれ以外の要求を徹底的に実現させる。
そしてしかるべき後には本丸である奨励金獲得に向けて体勢を整えて機を待つ。
つまり、決裂させるための交渉を画策したのでございます。
実にリスクリワードの優れた戦略といえましょう。
「不買実行」、つまり全東京市の魚屋が魚河岸(おまえ)の所じゃ買わないぞ、
というのが塩澤の切り札でした。
しかも交渉カードを北朝鮮のようにちらつかせるのが目的ではなく、
いつそれを切るかということだけが塩澤の狙い目だったのです。
コメント
随分と重い話が続いていますな。
そんコトより、取り敢えずは
お誕生日おめでとう。
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あーるてんぱ・・・
僕もテンパーだけど最近は坊主頭です。
投稿者: おおさわ | 2007年03月07日 06:42
どもありがとござあます。
今朝起きたらレベルが1上がっていたんですが、
WIZ的には体力-8 知力-5 すばやさ-12 陰謀度+35
くらいに変化しているので、人生まだまだ捨てたものでないな、と
ここでも感入った次第です。
と同時にますます脳テンパーになってゆくので、
やはり予断は許されない年代といわねばなりますまい。
投稿者: メカジキ | 2007年03月07日 09:30