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築地魚河岸昔がたり(80) 第二回不買争議(その四)

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不買争議ついに勃発。


一斉にあがった不買の火の手は東京全市を渦中に巻き込みつつ拡がりを見せます。
その最中の九月十二日、塩澤達三氏率いる買出人連盟は婦人団体との共催により
神宮外苑の日本青年会館で「東京魚市場不買市民大会」を開催、
「当局は東京魚問屋会社を弾圧して魚類部の販売権を一営利会社に独占させるのは、
 消費大衆の福利を蹂躙するものである!
 速やかに魚問屋会社への業務停止を解除し、卸売人の複数制を確立せよ!!」
と大いに気勢を上げます。
 

 
「まずはいい調子じゃん!」とほくそ笑む塩澤理事長。
「これで業務停止命令も撤回されますかね。」
「そりゃ、されるに決まっとるよ。世間の支持も集まってるし、
我々の勝利も目前だよ、ふぉふぉふぉふぉ!」
 
 
不買争議の世間に対するインパクトの強さに悦に入る複数派の人びとでしたが、
事の進展はこの人たちの思うようには進まなかったようです。
 
 
九月十一日付の都新聞は次のように報じました。
 
 
“……不買決行の火蓋を切った魚河岸の哥兄(あにい)連も去る二日から既に八日、
 意気だけはピンピンと生きがよいが、見透しのつかない持久戦に、いささかうだり、
 営業停止を食わせた当局も案外の抵抗にあせり、抜いた伝家の宝刀も収め方に窮し、
 開会、休憩、散会、紛糾ですったもんだの市会も来春の改選を控え
 地盤も大切、市への情誼も断ちかねて、
 三者三すくみ、三うだりで、昨今の空同様、有力な調停を待つ風情である。
 これをめぐって、婦人団体の声援、魚河岸疑獄の風説さえ飛び出している。
 信望ある調停者は何処にいる……”

 
 
東京市会では不買争議の勃発とともに、
「これは重大事だ」ということで連続審議を重ねてまいります。
その争点は魚問屋会社への業務停止命令を解除するか否か、
それは即ち、卸売人単複問題への行政の最終決断でもありました。
世論は独占とか業務停止という言葉に強く反応し、当局横暴に大きく傾き、
新聞もまた批判的な記事をぶち上げます。
しかし、時の牛塚東京市長は“単一合併は国家の方針”の一点張で押し通します。
むしろ態度をより硬直化して、塩澤らの不買大会の翌日の十三日には、
魚問屋会社にさらに一ヶ月の業務停止の延長を申し渡します。
これにはさすがに議員の反発も強く、東京市会を真っ二つに割っての論争となります。
結局は議員投票での決着となり、四十三対四十二という一票差で、
単一合併に傾くことになりますが、これには事前の工作があったとも伝えられています。
 
 
複数派の人びとは市会でも過半数の賛同者を得ているとの認識があり、
勝利を確信していただけに、この結果に非常にショックを受けます。
これはきっと田口達三氏ら複数派が圧力をかけたものだと思い込み、
違法行為だと訴えて争議をさらに持久戦へと持ち込もうといたします。
 
 
しかし、昭和十一年の残暑はことさら厳しく、
争議が一ヶ月に達する頃になると、さすがにみんなうだってまいりました。
 
 
「塩澤さん、一体いつになったら業務停止は解除されるのかね。
 いたずらに不買運動を続けていても、肝心の当局が折れないのではね。」
「いやいや、事を急いではいかんですよ。
 いかように決着をつけるか、タクトを振るのは私らですからな。」
塩澤氏はそう言いながらも、自分の視線がすでに事態とは別の方向にあることを、
自ら確認するのでした。
 
 
泥沼化する不買争議。出口は一体どこに?