メイン

2006年05月22日

J.B.ヘイウッド著『Tsukiji Fish Market』のこと(1)

     tsukiji fish market.jpg
  Tsukiji Fish Market   J.B.Haywood著
 
 
俺がJ.B.ヘイウッドの名を知ったのは、今から5年前、
築地市場のなかにある図書館『銀鱗会』で蔵書の整理を手伝っていたときのことだ。
古びたゾッキ本の詰まったダンボールの底からそれは出てきた。

“Tsukiji Fish Market –J.B.Haywood”

クロス製の表紙にシンプルなタイトルが打たれた洋書。
英文をざっとひろい読みすると、どうやら築地市場のガイドブックのようだ。
外国人によって書かれた築地で、しかも1976年刊とあるから、
もう30年も前に出されたものだ。
俺はちょっとめずらしさに興味をそそられたんで、そいつを借りていった。

続きを読む "J.B.ヘイウッド著『Tsukiji Fish Market』のこと(1)" »

2006年05月23日

J.B.ヘイウッド著『Tsukiji Fish Market』のこと(2)

     seriba. s25.jpg
        J.Bの見た築地市場


  “ゼイムス平森氏死去。築地を愛した青い目の帰化人”

  ……“青い目の日本人”として、市場や地域の人たちから親しまれていた
  ゼイムス平森氏が先月29日、トラホームにより死去した。享年64歳。
  「私はニッポンが大好きだ。ツキジは世界一エキサイトな街である」
  はるばるアメリカのイリノイ州からやってきた氏がそう言って日本に帰化し
  たのは今から26年前のこと。中央区月島に住まいを求め、本名ヘイウッド
  を日本名「平森」とあらためて、まったくの日本人として生活をはじめた。
  新鮮な魚が大好物という氏は、毎朝築地市場へ出かけるのが日課だった。
  世界に名だたる築地市場と日本の文化が歪んだ形で海外に紹介されてい
  るのを嘆き、「世界のツキジ」の真の姿を伝えることをテーマに取材を続けた。
  その成果として、『Tsukiji Fish Market』(1979)をアメリカで上梓する。
  築地を見事に活写した同書が本国で評判を呼んだことで、その続編として、
  『Tsukiji Empire Strikes Back!』を準備中の矢先、惜しまれる死であった。
  告別式は3日、築地善林寺にて、地域の人や市場関係者によってしめやか
  に執り行われた……(『銀鱗』昭和59年2号)
 

続きを読む "J.B.ヘイウッド著『Tsukiji Fish Market』のこと(2)" »

2006年05月29日

復刻版『築地市場ガイド』 (1)不思議の国ツキジ

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より 
 
ニッポンは日出ずる国といわれ、夜明けの始まる場所だというが、
とりわけこのツキジ魚河岸では、未だ夜のとばりの上がらぬうちから、
長靴を履いた騒々しいツキジ原住民たちが忙しく動き回り、暁の準備に余念がない。
世界中の朝はここから生まれるのだろう。

 「ア、ソー、ばかやろう! ぼやっとするねい!」

突然、小車を引いた図体の大きな男が後ろからぶつかってくるなり怒鳴った。

 「ドウモドウモ、この下司野郎! 何ィ突っ立ってやがる、コンニチハ!」
 「カイシャ! ぼやぼやしてると、向こう脛かっぱらうぞ! カブキ! スシ!」
 「カラオケ! 手前の足下の明るいうちにとっとと失せやがれ! バンザイ!」
 

続きを読む "復刻版『築地市場ガイド』 (1)不思議の国ツキジ" »

2006年06月05日

復刻版『築地市場ガイド』 (2)ツキジの登場人物

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
築地魚河岸は今から40年程前につくられ、
以来トーキョーの胃袋を満たすために休むことなく稼動して来た。
そのあちこちに老朽化の痕も見られるが、
ナラ・ホーリュー寺を模したという壮麗な伽藍建築が、
今なお、ここを訪ずれる者に敬虔な気持ちを想起させる。
とりわけ市場に隣接する波除神社に建立された数々の魚塚は、
ここが業者のみならず、魚たちにとっての聖地でもあることを示している。

続きを読む "復刻版『築地市場ガイド』 (2)ツキジの登場人物" »

2006年06月13日

復刻版『築地市場ガイド』(3)ツキジという別世界

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
外国人がツキジを訪れる場合、
それはニッポンの中のツキジという別の国に出かける、
と考えた方が的を射ているだろう。
それはツキジがニッポンにあって、まったくの別世界であり、
地続きながら“シマ”と呼ばれ、外界とは隔絶されていることによる。
その構造はちょうどローマ市内にあるバチカン市国と似ているが、
宮殿がキリスト教の聖地で神々しいのに対し、
カシは魚の聖地であって、たいそう生臭い。
 

続きを読む "復刻版『築地市場ガイド』(3)ツキジという別世界" »

2006年06月21日

殺意があるのか!? 止まらぬ運搬車

(復刻版『築地市場ガイド』第4回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
ツキジを訪れる観光客がまず面食らうことは、
この場所がやたら忙しく動いていることだろう。
まっすぐ歩いていても自分のすぐ横を
4tトラックがすごいスピードでかすめる。
その風圧でカツラが飛ぶぜ。
 

続きを読む "殺意があるのか!? 止まらぬ運搬車" »

2006年07月06日

うわっ、水だ!! 一張羅が台ナシに

(復刻版『築地市場ガイド』第5回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
ツキジのお隣はギンザだ。
だからこの生臭い場所を訪れた後にギンザに出て
ゲイシャ・ガールと遊ぼうなんて陽気な観光客もいる。
そんな輩はおおかた伊達な格好でツキジにやってくるが、
これがとんだマチガイなのだ。

続きを読む "うわっ、水だ!! 一張羅が台ナシに" »

2006年07月18日

アイツは怒っているのか!? 不可解なオヤジの言動

(復刻版『築地市場ガイド』第6回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
殺人ターレットに轢かれず、呪いの汚水にもまみれることなく、
運よく市場のなかを見学して回れることとなった。めでたしだ。
色とりどりの魚が目にも心地よい。
アンタは見たこともない魚を興味深くのぞきこんだりしている。
と、そのとき。
 
 

続きを読む "アイツは怒っているのか!? 不可解なオヤジの言動" »

2006年08月02日

オレはいったいどこにいるんだ!? 磁石も利かぬラビリンス

(復刻版『築地市場ガイド』第7回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 

本当をいえばアンタはこんなところに来るつもりはなかった。
連れのデニーが早朝のツキジは面白れえらしいぜ、というから、
ただなんとなくついてきただけの話だ。
ウキウキする相棒についてツキジを歩きながら、
スシ屋の店先や道具屋に並んだ小物にちょっとした興味をひかれもしたが、
だからといってそれほど楽しかったわけではない。
何となれば午前5時のモーニングコールは低血圧のアンタを相当に不機嫌にしていた。
 
 
市場の建物に入っていくと、そこには数え切れないほどの魚屋が続いていた。
並べられた魚の種類はそこに海をひっくり返したような賑やかさだ。
子どもの頃に故郷ルイジアナの州立水族館で胸おどらせた遠い日を思い出す。
「うわっ、これオコゼじゃん!」「ソードフィッシュだ! こいつ怒りん坊なんだよな!」
童心に還ったアンタは魚屋の店先から店先へと夢遊病者のようにさまよい歩くのだった。
 

続きを読む "オレはいったいどこにいるんだ!? 磁石も利かぬラビリンス" »

2006年09月11日

まるで切り裂きジャックだ! 迫りくるチェーンソーと恐怖のブレードソード

(復刻版『築地市場ガイド』第8回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
外国の書物でニッポンが紹介されるときに
決まって書かれるのがフジヤマにゲイシャにスシ。それからニンジャだ。
ニッポンにはまだニンジャがいると思っている米国人は多い。
あとは「混浴の風習がある」とか「チョンマゲをしている」とか
「恥をかくとハラキリをする」などと書かれてる。

続きを読む "まるで切り裂きジャックだ! 迫りくるチェーンソーと恐怖のブレードソード" »

2006年10月03日

オレにタコを食わせるな! 食文化の違いによる嫌悪感

(復刻版『築地市場ガイド』第9回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
ところ変われば品変わるといって、
お国柄によって生活習慣やら信仰やらぜんぜん違ってくる。
ましてや食文化ときた日にはえらく差があるのは当然だ。
そこにひどい誤解が生まれることも知るべきであろう。
 
 
毎朝ツキジに並べられた魚、その物凄い物量に驚かされる。
毎日ニッポン人はこれを食っちまうのだ。
まさにクレイジーだ。うえーっ、生で食うのかよ!
などと顔をしかめる人がいても不思議はない。
それが食文化というものだ。
食ってみれば理解できるかもしれないが、気持ち悪いって思うならそれまでだ。
どっちみち自由に考えればいいことだ。
 
 
しかしツキジはこの国の食文化の最先端であるから
当然異質なものがゴロゴロしていて、不快に感じる向きもあるに違いない。
 

続きを読む "オレにタコを食わせるな! 食文化の違いによる嫌悪感" »

2006年12月01日

セリバを見て回る

(復刻版『築地市場ガイド』第10回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 

ツキジのセリを見られるのか? ということをきかれる。
セリはツキジの会社と仲買との商行為の場だ。
だから、一般客は立ち入り禁止ということに建前上はなっている。
入口にもそのようにデッカク書いてあるし、
見物客などほとんど見受けられない。
だが、どういうわけだか外国人は容易に見れるようだ。
市場の事務所に事前に声をかければ、
 
 
 「ア、ソー。いいですドーゾドーゾ、コンニチハ!!」
 
 
と気さくに通してくれる。
なぜか知らないが、どうも日本人は半世紀前の戦争で負けてから、
外国人には頭が上がらないようである。
連中の弱みにつけこんで、大いばりで見学するも一興であろう。
 

続きを読む "セリバを見て回る" »

2006年12月14日

コモノ<チュウケン<タイショー<メイジン<カミサマ

(復刻版『築地市場ガイド』第11回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
 
早朝のセリバに、ところせましと並んだマグロ。
光沢もまぶしく、巨体をゴロリと転がしているが、
これを一本一本見て回るのがナカオロシたちである。
かれらは、手カギをぶら下げ、鋭い視線でマグロを品定めする。
 

続きを読む "コモノ<チュウケン<タイショー<メイジン<カミサマ" »

2007年03月20日

ツキジの裏側

(復刻版『築地市場ガイド』第12回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
ツキジ市場はそれ自体がひとつの町である。
ここにはおよそないものはないというくらいに何でもそろっている。
 
 
飲食店や“マンジュウヤ”と称される売店の類は
市場人の空腹を満たすとともに、きつい仕事の合間の憩いの場となっている。
商売道具を扱う刃物店や履物店、手カギなどを置いている道具屋、
床屋も数軒、入浴場にプール、体育館、図書館、診療所、産院もある。
さらには墓地(場外市場はお寺の敷地につくられた!)まで用意されているという具合に、
文字通り“ゆりかごから墓場まで”とり揃えているのがツキジだ。
 
 

続きを読む "ツキジの裏側" »

2007年04月03日

お前はもう死んでいる

(復刻版『築地市場ガイド』第13回)

      book.jpg
『Tsukiji Fish Market』J.B.Haywood著より
 
ニッポン人を大別するとニッポン民族とツキジ民族とに分けられるが
後者はツキジ市場という限られた空間にのみ棲息し、
そこに一種の独立国家を形成していることは周知のとおりである。
今や絶滅種とまでいわれるツキジ民族も厳密に見ていくと
ニホンバシ系、サンダイメ系、ウラヤス系など多彩な系譜を認められるのであるが、
それぞれの部族間には特徴的な大差はなく、概していえば、みんな同じようなものといえる。
 

続きを読む "お前はもう死んでいる" »